不機嫌な果実


「着きましたよ。さっ、降りましょう」


「えっ?…あ、うん」


7階のドアが開くと同時に、小菅に声を掛けられ、麻紀はハッと我にかえった。


入り口には『Grazie』(グラッツィエ)とイタリア語で表記されたウェルカムボードが、アンティーク風の椅子の上に置かれていた。


その周りには、ワインの木箱を積み重ね、グリーンが彩りを添えていた。


「いらっしゃいませ、ようこそ」


「予約していた小菅です」

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


真っ白なシャツに黒のギャルソンタイプのエプロンを身に付けた長身の男性に導かれ、小菅と麻紀は店内へと足を踏み入れた。


洞窟をモチーフとしたイタリアンレストランの個室は、足元に白砂が敷き詰められている。



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