不機嫌な果実


テーブルの上で仄かに揺れるキャンドルライト。


それを囲むように、麻紀と小菅は向かい合わせに座った。


「いつの間に予約していたの?」


運ばれてきた赤ワインを口にしながら麻紀は尋ねた。

「渡辺さんにゴーサインもらってから、すぐです」


「ゴーサイン、って……。ただの打ち合わせでしょ?」


「いえ、打ち合わせと言っても僕には大切な約束ですからね。
だって、そうでしょう?せっかく渡辺さんが食事に行く気になったのに、また気が変わるかもしれないじゃないですか?
だから、すぐに店を押さえておいたんです」


「……そう。
この店へは、よく来るの?」


周りをザッと見渡しても、店内は常連客が占めているような雰囲気だ。


一見(いちげん)さんには、なかなか入りにくい店だろう。


今は音信不通になっている、とやらの彼女と小菅は来ているのだろうか。



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