不機嫌な果実


「ところで渡辺さん、兄弟は?」


「えっ、あたし?三人姉妹の末っ子だけど」


「えー、そうなんですか?しっかりしているから長女かと思いましたよ」


「よく言われるけどね」


確かに、しっかり者の麻紀は上に見られることが多かった。


末っ子特有の甘え上手な部分を持ち合わせているはずなのに、人に甘えたり、人に頼ったりするのが幼い頃から苦手としている。


そんな性格が災いしてか、悩みがあっても広言せず、自分の胸の内に隠しておくタイプだった。


自分でももっと人に弱いところを見せられたら楽なのに……と思うけど、持って生まれた性格だから仕方ない、と最近では割り切っている。


「小菅くんは?――あっ、お姉さんがいるんだったよね?」


いつぞやのバーでの夜を思い出した。


ポール・スミスのスーツを身にまとった柏木との会話の中に、“お姉さん”が登場したのだ。


あのとき――確か、柏木との関係を『姉貴の友達、その弟』と言っていたはず。


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