不機嫌な果実
「でも、渡辺さんって本当は結婚にも憧れがあって、家庭に収まったら内助の功を発揮するタイプなんじゃないかな、と思います」
「………」
「きっと渡辺さんは甘えるのが下手なだけなんですよ。仕事に対しても、恋愛に対しても」
「――そんなことないわ!」
まさか、小菅に見破られてるの?……私の性格。
「渡辺さんは人一倍責任感も強いから自分で何とかしないと、という気持ちが働くんじゃないかな。だから、人と一線を画すようなところがありますよね。言い換えれば、他人を寄せ付けないオーラがあるということかな。
あっ、いい意味でですよ!
でも、僕は仕事をしている渡辺さんも、こうしてプライベートで話す渡辺さんも、どちらも魅力的で素敵だと思います」
小菅の言葉が魔法のシャワーのように麻紀の耳に降り注いだ。
どんな顔をしたらよいのかわからず、麻紀は戸惑ったような曖昧な表情を浮かべた。