美少女戦士 イグニス・ドラグーン・ユイ!
 〔ギャアァァ!〕
 という泣き声がユイに命を感じさせます。

 
 「綾香!? そこにいるのッ?」

 
 「いますよ…無事です。ハァハァ…美幸、こっちへ…」
 ユイはお腹の上に赤ちゃんを招きました。
 「ホラ、ママも大丈夫だよ」

 ユイが横たわった位置から、ちょうど下になった運転席が見えるのでした。

 「綾香、綾香」と母親は意味もなく我が子の名を呼び続けました。

 その意味にならない言葉が、頭部からの出血のせいではなくて、極致の愛情表現であることは、13歳の少女達ですら瞬時に理解したのです。

 「良かったねぇ…」
 ユイはお腹の上の“命”に笑いかけました。

 赤ちゃんは泣き続けてはいましたが、心なしか穏やかな泣き方になっています
。 

 ふと、遠くから救急車のサイレンが聞こえます。

 
 それは閉幕のファンファーレです。
 
 すべて終わったのです。
 誰も無事なのです。

 ユイは眠るように意識を失っていきました。
 美幸さんはユイが瞳を閉じるきるまで微笑みを崩しませんでした。けれど、ユイが意識を失った後で、その笑顔は“無意味”でした。

 美幸さんは“あるモノ”と対峙せねばならなかったからです。笑顔など作る余裕はありません。
 
 美幸さんは“赤い体をした何か”を睨み付けました。
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