美少女戦士 イグニス・ドラグーン・ユイ!
 屋上への扉にかかる鍵は中学生の頃と同様に、“『闇竜』が開けてくれました”。

 四面を囲むコンクリート。
 微かなカビ臭い。

 全て懐かしく思えます。

 「ホラ!」
 重い扉は何か、祝福ある王国へ荘厳な城門のように思えました。

 「ほら! 綺麗でしょ?」
 重い扉が開かれると、蜂蜜のような弱く仄かな光線が少年へと注がれます。
 この街にあって地平線に沈む夕日を見るのは、そう簡単ではありません。


 「あぁ……、夕日って紫なんですね」
 夏の夕日は橙から紫へと変色していきます。竜一の黒い瞳が紫に色づいています。


 「そうよ」
  二人はフェンスに寄りかかって、残光の最後の一筋が消えるまで無言を保っていました。
それから二人はどちらからともなく、座り込みました。
< 248 / 447 >

この作品をシェア

pagetop