夏と風鈴


病院に着いたアタシは 内科の受付を済ませて 大型テレビの1番前を陣取った


ふ~ん 世の中 最悪だな

子どもを殺す親
親を殺す子ども

いじめ

強盗

ワイセツ


暗い話ばかりのニュース



なんだか どうでもよくなり アタシは喫煙所を探した




“山田虎次郎さん”



聞き覚えのある名前を 看護士が事務的に呼んだ


キョロキョロ辺りを見回すと 色の白い男が すっと立ち 名前を呼ぶ看護士の方に向かって来る



アタシは 虎次郎と気が付かない


だって それはあまりにも 変わっていたから



頭にはニット帽 肌の色はより一層白くなり 身体も 痩せこけていた


「虎次郎…」


真っ白な彼は アタシに気が付き


「診察終るまで待って」


か細いけど どこか芯のある声で言った



アタシは 自分が何をしに病院に来ていたのか 忘れていた


虎次郎の変わり様が異常過ぎて
自分の名前さえ 呼ばれた事に気付かなかった



20分ほど 虎次郎が出て来るのを待っていた



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