夏と風鈴



目が覚めると…

そこは虎次郎の部屋 ではなかった
明らかに病室だった

アタシは昔からあまり病院というモノが好きになれなかった
病院が好きだという人は なかなかいないだろう

だけど アタシの先入観で病院と聞くと母親の精神科病棟が頭に浮かんでしまうのだ

母親のいる精神科病棟は 完全個室で部屋には絶対に動かないベッドとトイレがあるだけで ほとんど刑務所みたいな所だった



アタシは一刻も早く ココから抜け出したかった
靴を探し 足早に病室を出ると 少し年配の看護士が言った

「ダメよ。寝てなきゃ。お腹に赤ちゃんいるんだから…。身体も衰弱してるから しっかり栄養摂らないと」

…赤ちゃん?



何の事か さっぱり分からなかった

よく考えれば 子どもができない方が嘘みたいなものだ
避妊もせず 中に出すか出さないかは相手に任せてた




「アタシと一緒にいた男は…?」


「ああ。御主人さんは、着替えを取りに帰られたわよ」



は? 御主人さん?




みんな何を言ってるんだろ
虎次郎も この看護士も 別の世界の人に思えた


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