夏と風鈴



病室に向かってゆっくりと歩く
その歩調に合わせて 虎次郎も歩いた



病室に戻ったアタシは 着ている物を全部脱いだ


「虎次郎が思ってるほど アタシはイイ女じゃない…
 アタシは今までいろんな男に抱かれてきたんだ 掃き溜めみたいに扱われ その挙げ句がこの有様」


「・・・。」

虎次郎は 目を背けずアタシの目を見つめた

その瞳の奥にある芯の太さに かえって気恥ずかしくなった




「赤ちゃんは 産んだ方がイイ。その子には何の罪もない」

「アタシの父親は女を作って出て行った 母親は精神科病棟に入院してる アタシは親戚中たらい回しにされ強姦されたんだ」


「僕の命の変わりに産んで欲しい」


「アタシはただ…居場所が欲しかった」


「僕と一緒に生きて欲しい」


「アンタは1年後に死ぬんだ またアタシはひとりになる」


「優希はひとりにならない ちゃんとそこにいる」


虎次郎はアタシのお腹に指差した


「死ぬのが怖いんだ 優希が側にいてくれたら…僕は何も怖くない」


「自信がない」


「側にいてくれるだけでイイ」




ポロポロと溢れ出る涙は まるで夏の夕立の様だった


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