I’m home
「家、近いの?
送っていこうか?」
なんだか、
ほっとけなくて、
これでほっといたら、
ちょっと冷たいかなとか考えちゃって、
そんなことを言ってしまった。
「は?」
「いや。
俺、鬼じゃないし?
足腰立たない人置いてけないし。」
「…いらんし。」
「じゃあ、
どうやって帰るのさ?
まずタクシーにも乗れないでしょ?」
男は考えたように、
下を向いたけど、
なんだか恰好がつかな様子で、
言葉を選んでた。
偉そうに俺は助け船をやる。
「家、どこ?」
「ここから、
5分くらい。」
見ず知らずの男を背負って、
俺は、
暗い夜道を歩きだした。
思ったほど重くはなかったけれど、
真夏の夜には汗がにじむ。
滲んだ汗に、
温い夜風が心地いい。
遮断機の近くの公園だった。
最終電車が通るのだろうか?
それとも回送電車か。
後ろで、
小さくカンカンカンカンと、
遮断機の音が聞こえた。
黙ったままの男。
俺も黙ったまま。
時々思い出したかのように、
適当なナビをする。
俺は、
楽しかった。
そんな状況だったけれど、
楽しかった。
夏の日。
夏休みの最後の日のような。
そんな感じだった。