太陽の朝は窓を閉じて【オムニバス】
「ごめん。忘れてたし、行く気も無かった。」


電話口からは、大勢の人間の声や、コップの重なる高い音、ザワザワとした空気の感触が伝わる。


「おう、浅尾か?

元気にしとるべか?。」


昼間から、かなり出来上がった大きな声で急に電話口に出たのは、笹木先生だった。


「先生、お久しぶりです。大変、ご無沙汰しまして。」


私はかしこまって、そう言った。

そう言いながら、二十九にもなって赤い水玉のパジャマを着て電話している自分を想像すると、心からアンバランスな気分になった。


「浅尾の事は、オレはよ、特に心配してたんだ。

わかるか、バカヤロー。

顔ぐらい見せに来ないか、この教師不幸者が。
バカヤロー!!。」


笹木先生のバカヤローを久しぶりに聞いて、私は嬉しかった。

笹木先生は昔から口癖の様に、バカヤローと言う。


笹木先生の優しさの込もったバカヤローが、小学生の私をいつも暖かくさせた。


昔からどこかまわず最大音量の声で話す先生の声が、私の耳をつんざく。

こういう癖も変わらないんだな。

小三の私の小さな頭を少し乱暴に撫でてくれた黒くて大きな先生の掌を思いだしていた。
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