太陽の朝は窓を閉じて【オムニバス】
昔の字はあまり今と変わらない。

二十九歳の大人になって変わったのは、漢字がもっと使える様になった事と、

止めようの無い様々な感情は、優しさの殻に包んでしまえば人も私も傷付かない。

傷付かない、事も、
傷付けない、事も、

私にとっては生きる上での優しさ、である事に変わりない。


痛いと涙が出るから。

たとえ悲しい永遠の一人芝居の様でも、何もかもを絶対的に失わない私でいたいよ。

だとしたら、私はきっとこの世の誰よりも最高に優しい存在だ。


小学三年生。

時期は合ってる。

何の時に書いた作文だろう。

日付は無かった。

小学生の私は、こんな事を本気で先生に書いてたんだな。

先生は困り果てただろうな。


もう深夜の二時だというのに、私は何故押し入れからこんな物を引っ張って来てしまったんだろう。


その原稿用紙は長年の湿気で、薄茶色と暗い黄色がジワリと染み付いて黴の臭いが微かに鼻を付く。

福島の実家から持ち出した段ボールの中。

それはまるで朝の来ない夜みたいで。

この中で幼い私の文字は、どれ程の小さな呼吸を繰り返していたんだろう。



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