太陽の朝は窓を閉じて【オムニバス】
マッチ。

母が昔、買ってくれた赤いスカートの中にあった、去年のマッチ。

あの日私は、

母と男の光景を見た後、歩き出していた帰り道を後戻りした。

風呂のボイラーのなかの灯油を巻き散らし、マッチを一本、擦った。


産まれ出たばかりの赤ん坊みたいに、強い生命を宿した紅の炎が意気揚々と立ち上がり、目の前に拡がった。


その赤は、さっき母が口に含んでいた、


西瓜の色に、よく似ていた。


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