太陽の朝は窓を閉じて【オムニバス】
みなとさん。

お元気ですか?

私は定年を迎えてすっかり歳をとってしまった今、


浮かんでくるのは、君達教え子の顔ばかりです。


どうか元気で。

元気でいて下さい。


笹木 純一



何と言う事は無い、年賀状だったけれど、笹木先生は私にとっては忘れる事の出来ない先生だった。


私が三年生の時に、担任だった。
国語の先生。


優しい先生だった。


母のあの事件の後も、私は随分先生にお世話になった。


久しぶりに見た笹木先生の字は、やはり達筆な国語の教師らしい字であの頃と何ら変わりなく、凛とした字だった。

その何て事の無い年賀状は、否応なく私の前から突然消えてしまった母を思い出させてしまう。



八月。
鋭利な夏の太陽。

西瓜。

西瓜の種と赤黒い汁を含み男の股間に挟んで、一心不乱に食べる。

母。

お母さん。


また思い出した。

止めよう。

私は肩までの少し茶色い髪の頭を、その記憶を降り散らす様にブンブンと降った。



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