太陽の朝は窓を閉じて【オムニバス】
トキの声は小さく震えながら続けた。

「寛治様を置いては、わたくしにはもう無いのです。

庄屋への婚姻を父に言われた日より、何夜泣き続けたかわかりませぬ。」

静光尼はそのトキの涙で滲む様な声に、身じろぎもせず聞いていた。


トキはしばし涙に暮れ、声を絞りだす。

「しかし、これも世の定。

荒がう事はできませぬ。

わたくしの様な町の小さな薬屋の娘では、その様な父の命(めい)も受け入れる他は無いのです。」


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