太陽の朝は窓を閉じて【オムニバス】
トキは言われるままに、その隙間に腕を伸ばし右手だけをそっと入れた。

静光尼の、その姿は見えない。

ただその影は静かに差し出したトキの右手に静かに近付き、その手と手が触れた。

トキは静光尼の手のぬくもりを感じた。

太陽、雪、雨、風。
あるいは春夏秋冬。

その全ての温度を保っている様な、まるで穏やかで柔らかな尼僧の手に、トキは自身が不思議と清らかな塊になってゆく気がした。


「わたくしは指を無くす前に、こうして静光尼様の御手に触れさせて頂いただけで、本望でございます。

もう、何もためらいはございませぬ。」


トキは左手に持ち変えた小刀を見つめた。

「欲深きわたくしの憐れな想いを何卒、叶えさせて下さいまし。」

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