太陽の朝は窓を閉じて【オムニバス】
「ちゃんとピンポン押してよ。無駄に驚くのムカつくよ。」

忠志は『押したよ、出ねえからさ』とすねた様に六畳の隅っこに座った。


「死んでんかと思ったよ、何回押しても出ねえから。」


忠志の黒いナイロンの上着。

その肩に溶けて透明に澄んだ雪の後が残っている。

忠志はまるで春の新緑の様な緑の雨傘を、狭い玄関の壁に立掛けた。


調べてみると、呼び鈴が壊れていて鳴らない様になっていた。


ほらな、と忠志は、自分が持っていた合鍵を机の上に置いた。


「これが無けりゃ、この雪ん中また帰んなきゃいけねえ所だった。」


窓の張り付いた雪が、水溜まりの様に溶けてゆっくりと透明の窓を伝って落ちていく。


それを見ているだけでなんだか懐かしい。

時計は十二時を指している。

結構寝てしまっていたんだな。


「東京が雪なんて珍しいね。福島じゃあるまいし。」

私は小さな古いストーブの前を陣取って縮こまっている忠志に話かけた。



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