あのころ…
 別に僕は歌は下手な方ではない。むしろ上手い方だ。
「松本ーっ! これ、歌っちゃえ!」
「へっ!?」
 カラオケの機械から流れる音楽は…。
「ム…ムリムリっ!」
 僕は必死で否定すると、高峰の目が怖くなった…気がした。
 今、流れている音楽は、ジャニーズ系の歌。
 いくらなんでも歌いたくない。
 なんか…いやだ…。
 でも…高峰が怖い。
 …
 スゥ…
 僕は歌い始めた。
 音程はとれている…と思う。
 この歌は…なんだっけ…。
 そうだ、優璃の好きなグループの歌…。
 じゃあ高峰は…知ってて選んだのか?
 優璃の…好みを?
 …これは嫌がらせなんだろうか?
 多分、優璃が好きなアーティストの歌を僕が歌ったら、嫌になると思う。
 でも優璃は僕に優しく微笑んでいる。
 その笑顔は…なんなんだ?
 もうちょいでつまみだすぞ…の笑顔?
 それとも…喜んでいるの?
 さっぱりわからない…。
 15年間ずっと一緒だけど…分からない…。
 優璃の本当の気持ちが…。
< 10 / 21 >

この作品をシェア

pagetop