あのころ…

     2009 4月


「健ー! まだ寝てるのー?」
 窓の外から聞きなれた声がする。
「んー…」
 僕は「ラビット侍」のぬいぐるみを抱えて寝返りを打つ。
 まだ、春休み…。
「入学式! 遅刻するよ!」
 入学式…?
「…何言ってんだよ…、入学式は明日…」
 僕はぼそぼそ独りごとを言いながら「ラビット侍」のカレンダーを見る。
 今日は4月7日…
 入学式は4月7日
「あぁぁぁっ!」
 今日だ! 忘れてた!
「健! 置いてくよ!」
「あぁぁっ! ゴメン、優璃、翔太!」
 窓から身を乗り出すと、外には、幼なじみの、宮越優璃、上野翔太が新品の高校の制服を身にまとって、優璃は仁王立ちをしていた。
「急ぐから、ちょっと待って!」
 僕は急いでパジャマを脱いで高校の制服に手をかける。ちょっと…いや、かなり大きい。
 そうそう、僕は松本健。健でタケルだ。晴れて今日から高校1年生だ。
 着替え終わり、ネクタイを首に垂らしたまま、僕は階段を駆け降りる。
「健! まだいたの?」
 母さんのびっくりしたような言葉…。
「うん、行ってきます!」
 僕は通学鞄を手にとって玄関から飛び出す。
「遅いよ! どんだけ寝てんの!」
「ゴメン、春休みのつもりだったんだ」
「バーカ」
 優璃と翔太にメチャメチャ言われる。これは小学校のころから同じ光景だ。
「誰が一番にガッコにつくでしょう?」
 優璃が僕と翔太の目の前に立って言う。することは分かり切っている。遅刻しそうなときは、いつもこうだ。
「よーい、ドン!」
 一斉に高校生3人が住宅街の道を走り出す。他人の目にして見たら、異様な光景だ。
 ちなみに僕は中学時代、バスケ部のキャプテンだった。身長はないけど(言っておくが、僕の身長は160cmジャストだ)。
 でも、翔太は陸上の県の強化選手だ。僕は今まで、足の速さで翔太に勝ったことはない。
 優璃は普通だ。そんなに遅くもないし、速くもない。
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