あのころ…
「や…やるに決まってんだろっ!」
「だよなぁ! やらないって言ったら、殴ろうかと思ってたよ。あんなにうまいんだからさぁっ!」
 その言葉に僕は鳥肌が立つ。(こころにもないこと言ってよかった…)
「今日か明日で見学行こうぜ!」
「う…うん」
 僕は高峰に肩をグイグイ引っ張られて、教室の中に入る。
 僕の席は出席番号順で、窓際の前から4番目だ。高峰は僕のななめ前。(隣じゃなくてよかった…)
「えー…このクラスの担任の原田雄二です。これから1年、楽しくやりましょう」
 もう定年まであとちょいくらいの爺ちゃんセンセだ。なんかほのぼのしている。
 名前だけ言って原田の爺ちゃんは、どっこいしょとばかりにパイプ椅子に座ってうたたねをしている。
「なぁ、松本」
 高峰が僕の方を振り向いて言う。
「ん?」
「おまえさ、宮越優璃のこと好きだろ」
「はっ…はぁっ!?」
 僕はペン回しをしていた手をすべらせて、ペンを床に落とす。
「っ…んなわけねぇだろっ!」
「バレバレだぞ。おまえ、分かりやすいわ」
「ちがうってっ!」
 僕は高峰から目をそらす。
「いいんだって。俺、おまえより可愛いやつみつけたし」
「誰だよ。つーか、僕は可愛いやつかよ」
「うん。松本は可愛いやつだ。でな、大野美羽だよ」
「大野?」
「うん。あの清潔感あふれる姿」
「まぁ、清潔感あるな」
「いいと思わないか?」
「いいんじゃない? 中学の時学級委員だったし、真面目だよ」
「松本、お前はいいやつだ」
「知ってるよ」
 僕は高峰から離れるように椅子を後ろに引いて、同中の宮野としゃべる。高峰は大野をひたすら見つめていた。
 するとすぐに入学式が始まった。
 長い。長い。そして長い。んでもって、ケツが痛い。
 この入学式、そんな感想しかないね。
 あぁ、ヅラ疑惑校長! 誰もアンタの話はきいてないから、今すぐ終了だーっ!
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