転校
転校―遠い記憶―
お風呂に入ろうと、遊んで泥だらけになった服を脱ぎ捨て散らかしながら準備してた。

「あ、繭!ちょっと良い?」

「なに?はやくおふろ入りたい!」

「繭、ちょっと聞いて!」

いつも笑顔で優しい母さんが少しだけ怖かった。

今思えば、私にショックを受けさせないように言葉を選んでいたのだろう―

「あのね、引っ越すことになったの・・・。陸も産まれて、この家も狭くなってきたから。」

陸は、この頃産まれたばかりの弟だった。
今では中学生になって、私の言うことなど大半は右から左へ受け流す生意気な弟だ。

「ひっこし!?家がかわるの?」

「そ、そうよ・・・。どうかな?嫌?」

嫌と私が答えていても、強制的に引っ越しさせられることには変わりはないだろう。
でも、幼い私は引っ越しというイベントをカッコいいものだという風にしか認識していなかった―

―馬鹿だな、私・・・

「うん!ひっこしする〜!!」

「そう!良かった・・・。あ、お風呂入っておいで。ごめんね、途中で。」

「いいよ〜!」


バタンッ


扉を閉め、シャワーを勢い良く出した。

「つめたっ!!」

「繭、大丈夫!?急に出したらそりゃ冷たいわよ!」


―本当に馬鹿だな、私・・・



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