破   壊
 捜査上の見落としや落ち度は、当時の警察資料からは窺えない。

 私は警察署で、彼の話を伝えた。

 当時の捜査官達の大部分は残っていなかったが、一人だけ、当時から勤務していた警邏課の巡査部長が、現在も交番勤務に従事していた。

 巡査部長は、その時の事を克明に記憶していて、私に詳しく話してくれた。

 すると、筧の話に出て来た殺害現場である、潰れた鉄工所は在ったという。

 だが、その場所は河原の土手沿いではなく、女の子の自宅からも10㌔近く離れた隣町に在ったらしい。

 他にも、何点か彼の話と現場状況に矛盾する点が見受けられた。

 私は、この件は彼の作り話ではないかという疑念を抱いたが、先入観を捨て、そのまま調査を続けた。

 女の子と河原で会っていたという他校の男子生徒は、当時、かなり厳しい警察の追求を受けたらしい。

 周りからも、一時は犯人扱いをされ、それが原因でなのか、親戚の方に引き取られてから数ヶ月後、自殺をしている。

 男子高生への疑惑だけが、その後も残り続けた。

 筧亮太が言っていた下水処理場は、その場所に在った。

 バラバラに切り刻まれ、処理場の中に捨てられたとしたら、確かに遺体を発見するのは困難だろうと、警察関係者は言った。

 だが、誰もこの事件に関して、それ以上真剣に語ろうとはしなかった。

 表向きは、私の調査に協力的ではあったが、十二年も前の迷宮入りした事件を今更、という臭いが感じられた。

 しかし、まだ十二年前なのである。

 事件自体は、行方不明という事で、立件されていなかったとはいえ、ならば、寧ろ時効は発生していないのである。

 殺された事が事実ならば、尚更、筧 亮太の証言を裏付けるべく動かなくてはならないのではないか。

 私の苛立ちを察した刑事の一人は、

「当時の捜査体制に不備があったと認めるような事を、上は余り認めたがらないもんなんです」

 と、言い訳にもならない言葉を吐いた。




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