破   壊
 当時の所轄署は、やや無気力な空気を感じさせたが、後に本庁へ出向いた時はまるで逆の空気だった。

 私の調査に協力的過ぎる位で、私の調査資料の全てを見せてくれとまで言って来た程。

 高校の校長殺害の件は、実際に未解決殺人事件として、現在も細々ではあったが捜査されていた。

 筧亮太の話と一致する事ばかりで、警察は早速、逮捕状を取る手続きをしていた。

 警察関係者の話では、彼らに一切何も話さないらしい。

 私は、彼の弁護士というより、刑事のような気分になって来た。

 初めて面談した時に受けた心の重石が、漸く薄らいだ頃、再び彼と接見しなければならなくなった。

 駅が一つずつ目的地に近付くに従い、私の心に重石が姿を現し出した。

 接見の手続きを取り、面会室に入る。

 私達弁護士は、刑務官の立ち会い無しで、被告人と面会が出来る。

 時間の制限も無い。

 その規則が疎ましく感じた。

 透明なアクリル板で仕切られているとはいえ、狭い面会室に彼と二人だけになる事に、嫌悪感を感じずにはいられない。

 それ以上に、恐怖感もあった。

 私は、殺人者が初めてでは無い。

 過去にも、人を殺した人間の弁護を引き受けた事はある。

 けれど、今回のような感覚にはならなかった。

 事件の特殊性だとか、そんな事など関係無く、私は彼自身に畏れを感じていたのだ。

 その理由を考える事にも、私は恐怖感と嫌悪感を抱いていた。

 黒革の記録ノートを広げ、彼が現れるのを待った。

 待っている間、私は懸命に自分の心を落ち着かせようとしていた。





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