破   壊
 彼の精神鑑定は、裁判所側からの正式な許可が下り、一週間後には身柄が指定された精神病院へと移される事が決定した。

 鑑定留置の結果次第で、今後の裁判が継続されるかどうか決まる。

 筧亮太の精神状態が、罪悪の判断が出来ないと認定されれば、彼は無罪となる。

 但し、あくまでも罪には問わないという事で、即日釈放を意味するものではない。そのまま、重度精神障害者として、強制入院させられる。 だが、完治し、通常の社会生活が営めるとなれば、退院する。

 社会に解き放たれるのだ。

 私は、複雑な思いで裁判所からの通知を受け取っていた。

 弁護士という立場からすれば、このような犯罪者には精神鑑定を申請するのは当然であり、法的解釈として、事件当時に筧 亮太には責任能力が欠けていたという弁論を展開して行くしか術が無い。

 法廷での態度や、その後の証言、又、拘置所内での言動を証拠として取り上げられれば、責任能力無しという判断を下されても不思議では無い。

 鑑定結果云々は別として、あの異常性は、とても常人のものとは思えない。

 だが、一方では、彼には法の裁きが必要だという思いもある。寧ろ、そっちの方が強い。

 私は、ジレンマに襲われた。

 このまま鑑定留置から強制入院となれば、私とは関わりが失くなる。

 しかし、彼のような人間を責任能力無しの一言だけで、果たして生かすべきなのか。

 勿論、一生、鉄格子付きの病室で暮らす事が生きてると同じものとは思わない。

 以前迄の私は、死刑制度にも、どちらかと言えば反対の意見を持っていた。

 決して、積極的な意見ではないが、死刑を肯定する側よりも否定する側の人間だった。

 弁護士という職業も影響していたのかも知れない。

 筧亮太は、そんな私の思想をも変えてしまったのだ。





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