破   壊
 彼が移される予定の病院から、参考資料を送って貰えないかという連絡が入った。

 彼との面談で書き留めた内容をパソコンで清書し、警察資料に添付して送った。

 彼のような犯罪者は、きちんと罪に服すべきだ……

 そう考えていながらも、となれば裁判で彼の弁護を担当しなければならない。

 同じ場所、同じ空間で呼吸するのも嫌だと感じたのにである。

 例え、弁護士失格と言われてもいい。

 そういう事を私に言って来る人間は、一度でいいから、彼と対面してみればいい。

 5分と居られない筈だ。

 そういった書類の手続きや、別な裁判で忙殺されていた時に、彼から手紙が届いた。

 差出人の名前を一目見て、私は思わずその分厚い封書を取り落とした。

 拾ってくれた若い事務員が、すいませんと何度も謝り、私の前に再び差し出した。

 その手紙をなかなか開ける事が出来ず、結局自宅に持ち帰ってしまった。

 休日以外は、毎晩帰りが夜の9時を過ぎているから、大概息子は先に食事を済ませている。

 母親らしい事は何一つとしてして上げられず、息子には寂しい思いをさせているが、今迄愚痴めいた言葉を息子から聞いた事が無い。

 取り立てて、これと目立つ所は無いが、学校の成績も悪くない。

 何年も片親で育てて来てるが、特に問題を起こす事も無く過ごせている。

 我が子ながら、良く出来た子供だと思う。だから、息子には殆ど勉強の事とかで煩い事は言った事が無い。寧ろ、遊べと尻を叩く位だ。

 比較的内気なせいだからか、余り外に自分からは出ようとしない。

 中学二年だから、丁度思春期に差し掛かっている。

 こういう時、母親は不便だなと感じる。

 性に興味を抱いておかしくない年頃だが、女親では、男の子相手に膝を突き合わせてそういう話も出来ない。

 こんな時、主人が生きていてくれたら……

 その想いは、息子の為というより、実際には自分の為だと、私は充分判っていた。





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