破   壊
 狭いながらも我が家に戻るとホッとする。

 玄関を開け、ただいま、と帰宅を告げる。

 居間に居たとしても、息子は滅多に返事をしないから、別にそれを期待してる訳では無い。

 けれど、今日のような夜は、息子のはにかむような笑顔で迎えて欲しいと願っていた。

 居間で息子はテレビゲームをしていた。

 食べ終えた食器がテーブルの上に置かれたままだ。

 私にちらりと視線を寄越し、微かに聞き取れる位の小さな声で、お帰り、と息子が言う。

「大輔、シュークリーム買って来たんだけど、食べる?
 コンビニのじゃなくて、ちゃんとした洋菓子屋さんのだから、すごく美味しいわよ」

「コンビニのでも美味しいよ……」

「まあ、そうだけどさ、一緒に食べよう」

「うん」

 息子と少しでも会話が出来る時間と、きっかけが欲しくて買って来たシュークリームをテーブルに出す。

 ペットボトルのアイスティーを冷蔵庫から出し、息子にすすめると、熱中していたゲームの手を止め、私の方へ向き直った。

 無言でシュークリームを頬張る息子。

「ねえ、何面迄クリアしたの?」

「これ、RPGじゃないよ。サッカーだよ……」

「あっ、そうだったの?てっきり何面もクリアして行くやつかと思ってた。」

 少しばかり気まずい空気を感じた。

 最愛の息子の前なのに、どうして私は彼におもねくような態度を取ってしまうのだろう。

 息子に嫌われたくない、好かれたいという意識が強過ぎるのだろうか。或は、母親として何もして上げられない引け目から、無意識のうちに卑屈になってしまうのだろうか。

「ママ……」

「何?」

「ちょっと買いたい物があるんだ……」

「高い物?」

「うん……」

 息子が欲しい物をねだるのは、久しくなかった事だった。

 思わず嬉しくなり、私はテーブル越しに身を乗り出した。

 十四にしては整っている顔を見つめているうちに、理由も無くドキドキした。

「ギター……」

「いいよ」

 何も考えず、私はそう返事をしていた。




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