破   壊
 先生なら、少しは理解出来る筈なんだけどな。

 だって、僕の人生の中で、誰よりも一番、僕の思ったままを話した人間だもの。

 篠塚先生はね、僕にとってすごく大切な人だから、他の人間には渡したくなかったんだ。

 それに、人間はいつかは死ぬわけじゃない。

 歳取って、薄汚くなって死ぬんだったら、美しいままで死んだ方が幸せなんだよ。

 明日になったら、交通事故でぐちゃぐちゃになって死ぬかも知れないし、或は、火事で丸焦げになっちゃうかも知れない。

 そんなの最悪だしね。

 それに、ひょっとしたら、世の中には、僕と似たような考えを持ってる奴が、篠塚先生を狙ってるかも知れない。

 世の中、広いから、有り得ない話じゃないよね。

 それでも、僕程には美しく、清らかに死を与えて上げられる人間はいないと思うんだ。

 篠塚先生に死を迎えさせるに値する人間は、僕しかいなかったのさ。

 知ってる?死を与える事の中でも、愛情から来るものが、最高に尊いものなんだ。

 憎しみで死を与える事は、それよりランクがずっと下がる。

 衝動的も下の下だね。

 だから、その日は、二回も風呂に入って自分の身体もちゃんと浄めたんだ。

 下着だって新品を着てたし、洋服はクリーニングに出した物を着て行ったんだ。

 どお?これだけ相手を大切に思って殺して上げる人間て、いないでしょ。

 それはどうでもいいとして、僕は篠塚先生のアパートに行き、誰にも見られないようにして、部屋に忍び込んだ。

 ドロボーの真似はしたくなかったから、ちゃんと合い鍵を作っていたんだ。

 どうやって作ったかって?

 そんなの簡単だよ。鍵屋に頼めばいくらでも作ってくれるさ。勿論、篠塚先生が留守の時だけどね。

 部屋で待っている間、僕はずっと想像していたんだ。

 どういう顔をしてくれるのかなってね。




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