破   壊
 手紙はまだ続きがあった。

 拘置所で直接話した時程、私の心は揺らがなかったが、それでも、その夜はそれ以上先を読む気にはなれなかった。

 文字という事もあって、接見していた時の圧迫感は受けなかったけれど、彼の文章は、時に血の臭いと色を感じさせた。

 テーブルの上のワインは空だ。

 無意識のうちに、飲み干していた。

 それ程アルコールに強くない私は、ワインの酔いからか、手紙に悪態をついていた。

「ホラー映画の観すぎで脳みそが腐ってんじゃないの?」

 残りの便箋は、ざっと見ても、まだ十枚近くある。

 封筒の中に戻そうとした時、背中に視線を感じた。

 息子の大輔が自分の部屋から出て来ていた。

「どうしたの?」

「喉が渇いたんだ」

 そう言って冷蔵庫に向かう息子を、私は後ろから抱きしめようとした。

「こら大輔、最近ママに少し冷たいぞ」

「……お酒、臭い」

 無表情でそう言った大輔は、私の腕からするりと抜け、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、ペットボトルに直接口を着けた。

 気まずくなった雰囲気をどうにかして変えようと、

「ねえ、ギター、ママと一緒に買いに行かない?」

 と声を掛けた。

「いいよ。そんな時間無いでしょ。それより、誰からの手紙だったの?」

 見られていた。

 うろたえた私は、思わず声を荒げてしまい、仕事の手紙だからあなたに関係無いわと言ってしまった。

 息子の表情を見て、しまったと思ったが、遅かった。

 歳より大人びた端正な顔立ちが、鋭利なナイフのように思えてしまった。





< 30 / 78 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop