破   壊
 それから暫くの間、私は筧亮太を忘れて仕事に没頭する事が出来た。と言うのは真実とは違う。そう思いたいと毎日意識していただけだった。

 事務所に居て、私宛ての電話が鳴ったり、手紙が届く度に、私は彼の亡霊と戦っていた。

 彼が鑑定留置されているからといって、実際は担当弁護士としての仕事は山積みだった。

 精神鑑定の結果がどう出るにせよ、両面での弁護をする準備をしなければならない。

 それと、彼が告白している過去の罪が、事実かどうかを調べなければならないし、事件として立件されれば、それに対しての弁護方針も決めなければならない。

 私一人では、とても手に負える仕事ではない。

 その事を事務所の代表にも伝えた。

 しかし、代表の口から出た言葉は無情なものだった。

「まあ、国選だから弁護料は安いが、その分、僕の方から手当を出しておくよ」

 収入の割に仕事量が多くて不満を言ってるとでも思ったのだろうか。

 精神的にも無理ですと何度も言ったが、結局は聞いて貰えなかった。

 私が彼から解放されるには、一日も早く裁判を結審させるしかない。

 こうなると、長い鑑定留置がもどかしく感じられた。





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