破   壊
 彼の告白に基づいての調査は、思いの外手間取った。

 最初に届いた手紙に書かれてあった名前を全て辿って行ったが、はっきり事件性有りと警察が介入していたのは、予想より少なかった。

 篠塚女教師の場合など、彼女の手紙が残されていて、自ら失踪したようになっていた。

 彼女は、東北の出身で、郷里にワープロで打たれた手紙が届いていた。

 教師という仕事柄、ワープロはよく使っていたらしく、手紙も彼女のワープロで打たれたものだ。

 住んでいたアパートは、郷里の母親に荷物も含めて処理して欲しいとなっていて、手紙の末尾に、

『好きな人が出来ました。その人と幸せになります』

 の一文があった。

 彼女の両親は、事件に巻き込まれたとも思わず、都会の男に騙されて、いずれ捨てられて田舎に戻って来るだろう位に思っていたという。

 東北の人間特有の純朴さで、人を疑うといった思考が無い。

 だから警察にも届けず、誰が打ったか判らないワープロの手紙をそのまま信じてしまった。

 アパートの状況はどうだったかと尋ねたが、電話越しでの会話で、ただでさえ聞き取りずらい東北弁の為か、結局よく判らず終いだった。

 私は、彼からの二度目の手紙を思い出し、もう一度読み返す事にした。

 悍ましい場面は飛ばし、客観的事実の部分を文面から探ろうとしたのだが、何度繰り返して読んでも、十年近く過ぎた今となっては、篠塚女教師殺害の真相には触れられなかった。

 彼の告白からすると、次の殺人は、大学生になって間もなくという事になる。

 手紙に書かれた犠牲者は、名前ではなく、『クズ野郎』となっていた。

 名前は書かれていなかったが、簡潔に書かれた文面から、具体的な被害者が割り出された。

 被害者は、母親の愛人だった。





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