破   壊
 母親の愛人を殺害して半年もせず、彼は次の殺人を犯している。

 犠牲者は『筧早苗』彼の戸籍上の母親だ。

 ふと私は思った。

 そういえば、彼の口から、母親が義理の母親だとは一言も聞いていない。

 血が繋がっていなかった事を彼は知っていたのだろうか?

 そんな疑問が湧いた。

 彼が、母親の失踪届けを出した時には、戸籍抄本を目にしたかも知れないから、そこで知る事は出来ただろうが、ひょっとしたらそれ迄、実の母親だと思い込んでいたのではないか。

 私がそう思った理由の一つに、彼が幼い頃に住んでいた近所の住民達から、そういった話が一切聞かれなかったからだ。

 筧早苗自身の口からも、自分は後妻であるという話は、聞かれなかったのではないか。

 もしかしたら、今現在も、彼は義理の母親とは知らず、実の母親と思い込んだままの可能性もある。

 最初の手紙には、自分が殺した人間の名前や、人物しか書かれていなかった。

 具体的にどうやったとかの状況説明は一切書かれていない。

 時期と場所だけが克明に書かれてあるだけだ。

 母親を殺害してから、次の殺害に至る迄、四年の空白があった。

 中学の同級生殺害から辿って行くと、ほぼ一年から二年に満たない間に一人の割合だったのが、四年間ぴたりと止まっている。

 そして、再び殺人が行われた。

 今度は凄まじい。

 二十四歳から今回逮捕される迄の三年間に、彼は七人もの人間を殺している。

 老人から子供、男女を問わずである。

 それと、それ迄とはっきり違う部分が現れ出した。

 以前は、いずれも彼の身近な存在が犠牲者となっていたのだが、この三年間の犠牲者は全員が行きずりで、見知らぬ者ばかりなのだ。

 私は、二度目に来た手紙の続きが気になりだした。





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