破 壊
その手紙は、ずっと私の鞄に入れたままだ。
さすがに今度は家で読まず、事務所で読む事にした。
封筒から便箋を取り出した時に、ふと妙な違和感を感じたが、それも瞬間的なもので、直ぐさま私の意識は文面に吸い込まれた。
読み掛けの後半は、母親の殺害動機についてだった。
彼は、母親への憎悪をこれでもかと言わんばかりに書き連ねていた。
篠塚女教師を殺害した下りの文面と、はっきり文体が違う事が読み取れた。
憎悪の根源は、母親である早苗の私生活にあったようだ。
身体を売る商売に身を投じた事を延々と書き、それに対し、彼は人間にあるまじきとまで表現し、糾弾している。
彼の文章は、内容はともかくとして、最近の若者にしてはきちんとした文脈で書かれている。
語彙も豊富で、文体も口語調ではあるが、不自然さが無い。
理路整然としている。
しかも、途中途中で、読み手の心を見透かしたかのように、話を転換したりと、まるで会話をしてるかのような文章なのだ。
それが母親の下りになると一変した。
同じ文章が何度か重複し、不満と罵詈雑言の羅列で終始していた。
ところが、殺害に至る場面になると、再び元の文体に戻っている。
時には、華美な形容詞まで引用し、あたかもその場面を思い返して、自己陶酔に浸っているかのようだ。
その場面を読んでいて、彼が恍惚の表情を浮かべている様を想像してしまった。
最初の手紙に書かれていた他の被害者についての記述は、そこには書かれていなかった。
私は、母親の記述の部分だけ、もう一度読み返した。
私なりに引っ掛かるものがあったからだ。
もやもやしたものが、頭の中で蠢いている。
何だろう?
答えが出せないまま、手紙を読み終えた。
さすがに今度は家で読まず、事務所で読む事にした。
封筒から便箋を取り出した時に、ふと妙な違和感を感じたが、それも瞬間的なもので、直ぐさま私の意識は文面に吸い込まれた。
読み掛けの後半は、母親の殺害動機についてだった。
彼は、母親への憎悪をこれでもかと言わんばかりに書き連ねていた。
篠塚女教師を殺害した下りの文面と、はっきり文体が違う事が読み取れた。
憎悪の根源は、母親である早苗の私生活にあったようだ。
身体を売る商売に身を投じた事を延々と書き、それに対し、彼は人間にあるまじきとまで表現し、糾弾している。
彼の文章は、内容はともかくとして、最近の若者にしてはきちんとした文脈で書かれている。
語彙も豊富で、文体も口語調ではあるが、不自然さが無い。
理路整然としている。
しかも、途中途中で、読み手の心を見透かしたかのように、話を転換したりと、まるで会話をしてるかのような文章なのだ。
それが母親の下りになると一変した。
同じ文章が何度か重複し、不満と罵詈雑言の羅列で終始していた。
ところが、殺害に至る場面になると、再び元の文体に戻っている。
時には、華美な形容詞まで引用し、あたかもその場面を思い返して、自己陶酔に浸っているかのようだ。
その場面を読んでいて、彼が恍惚の表情を浮かべている様を想像してしまった。
最初の手紙に書かれていた他の被害者についての記述は、そこには書かれていなかった。
私は、母親の記述の部分だけ、もう一度読み返した。
私なりに引っ掛かるものがあったからだ。
もやもやしたものが、頭の中で蠢いている。
何だろう?
答えが出せないまま、手紙を読み終えた。