破   壊
……彼女を浄化させて上げるのが、僕の使命だったんだ。

 僕がこの世に生を授かった理由が、この時はっきりと判った。

 世の中の人間は、自分が何の為に生まれて来たかなんて、一生掛かっても気付かない。

 だけど、僕は気付いたんだ。

 不浄なものを浄化するんだ。

 人に死を与えるにしても、それに相応しい人間と、そうでない人間が存在するんだ。

 相応しくない者が死を与えたとしたら、殺された人間は永遠に不浄なままなんだ。

 けれども、僕から死を賜れば、どんなに不浄な者も、美しく浄化されて行く。

 母親のように、汚れた身体と精神を持った者でもさ。

 役目だったんだ。

 その事に気付いた僕は、感動したよ。

 言って置くけれど、僕は無神論者だよ。

 不浄で、不完全な人間が創造した神なんて、少しも信用出来ないさ。

 じゃあ、自分が神だと思っているのかって言いたいんでしょ?

 微妙に違うな。

 神とかを越えたもの。

 僕自身が運命なんだ。

 僕という存在に出会った人間達にとって、その事全てが運命なんだ。

 その事を僕は二十歳で知ったんだ。

 母を殺した時にね。

 そういう意味では、母親に感謝してる。

 僕に、この事を知らせる為に、彼女は存在し、肉体を僕に捧げてくれたんだから。

 もしかしたら、僕に浄化されたくて、彼女は自ら肉体を汚していたのかも知れない。

 これも、一つの愛の形と呼べるなら、世の中で一番崇高な愛なのかもね。』




 欺瞞と自己擁護、歪んだ精神。

 ここに書かれた文字の全てに、それらが詰まっている。

 現実逃避、破壊された心。しかし、一片の同情心も湧かない。が、私の頭の中で、もやもやしたものが蠢めいているのも事実だ。




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