破   壊
 筧亮太が鑑定留置に回されて、既に三ヶ月目に入っていた。

 彼を担当した精神科医は、膨大な量になった報告書を一頁目から読み直していた。

 明日、この報告書を提出しなければならない。

 結論は、既に出ている。

 最初の一週間で報告書に書く内容は決まった。

 現在は、心神耗弱による分裂症状により、虚言、妄言の数々を口にしているが、犯行時に於ける責任能力に関しては、充分にあったと考えられる……

 法医学としての精神科医の立場から言えば、当たり前な答えだ。

 生まれながらの精神異常、或は障害者として生活していた者であるならば、法律上の保護措置から、犯罪を犯しても刑法の範囲外に置かれる。

 筧亮太の場合、殺人を犯すに至る動機の部分こそ、心神耗弱状態から来る異常性が見られるが、自分の行動が法に触れている事は自覚していた。

 事件の秘匿行動がそれである。

 更に、犯行の計画性等もその事を裏付けている。

 法医学上の精神鑑定は、現在を診断鑑定するのではなく、犯行時はどうであったかを見定めるものである。

 彼が語った殺人事件の数々は、どれもが猟奇的で、精神医学上、非常に興味深いものがある。

 近年、法医学でも認められるようになって来た多重人格とも、筧亮太の場合は違う。

 彼は常に自分という存在を誇示している。

 多少のそういうきらいがあるとすれば、己を崇高なものへと変化させて行く過程が、多重人格のそれに分類出来なくもない。

 かなりの躁鬱病でもある。

 それと、極端な幼児性が、性的嗜好の中に潜んでいるようだ。

 いずれにしても、充分に責任能力は備わっていた。

 しかし、担当医は、果たしてこのような報告書でいいのか?という疑問も、自分自身に抱いていた。

 彼をもっと知るべきではないだろうか……

 しかし、担当医はその報告書をA4の茶封筒に入れ、厳重に封をした。




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