破   壊
 母親は、付添人用のベッドでぐっすり眠っている。

 枕元にあった人工呼吸器のスイッチに手を延ばし、切っていたんだ。

 そしたら、規則正しく上下していた父親の胸は、ぴたりと動かなくなった。

 ベッドの横にあった機械が、突然、ピィーッて鳴り出した時には焦ったよ。

 看護婦さん達が病室に来る前に、人工呼吸器のスイッチを元に戻した。

 母親は、寝ぼけ眼で、

「どうしたの?」

 なんて悠長な物言いをして、間抜けなアホ面丸出しだったな。

 看護婦さんに続いて、お医者さんも飛んで来て、一生懸命心臓マッサージとかしてたけど、僕は心の中で、

 やめろよ……

 て、言ってた。

 結局は、生き返らなかったけど。

 そうそう、自分でも驚いたんだけどね、この時に、涙が出て来たんだ。

 悲しかった訳でも無いのに、どうして泣いたんだろうって、今でも思う。

 自分の気持ちなのに、理解出来ない事が多いよね。





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