破   壊
 夢だと途中で気付いていた。

 早く醒めて!

 何度も叫ぶ。

 私の五感は研ぎ澄まされ、周りの情景が肌に直接刺さって来る感覚になった。

 血の温もりも、ぬるっとした感触も、そして、揺らぐ空気までも、しっかりと感じていた。

 視界の中で、真っ赤な色だけがどんどん広がって行く。

 息子の名前を呼び続けていた。

 泣き叫んでいた。

 ママ…ママ……

 微かに聞こえたように感じた。

 突然、私は身体を掴まれた。

 抵抗出来ない程の強い力。

 い、痛い!

 夢なのに、研ぎ澄まされた五感は、痛みまで感じさせた。

 全身の血が、急に冷たくなったかのように感じ、後ろを振り向いた。

 筧亮太……

 悲鳴も上げられなかった。

 ママ…ママ……

 ママ…ママ……

「大丈夫?」

 息子に揺り動かされ、私はやっと現実に戻れた。




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