破   壊
 冷蔵庫からミネラルウォーターを出してくれた息子は、私にそれを差し出した。

 喉を鳴らして一息に飲み干す私。

 身体中、気持ちの悪い汗でぐっしょりだった。

「ありがとう……うなされてた?」

「うん、よくわかんない言葉で喚いてた」

「そう……ごめんね」

 息子の身体に手を伸ばし、私は両腕に力を込めて抱きしめた。

 胸の中に抱き込むようにし、柔らかな髪の毛に顔を埋める。

 冷え切った私の血が、息子の体温で少しずつ温もりを取り戻し、鼻腔を通して感じるほのかな匂いに、私の心は安らいだ。

 普段なら、こんなふうに抱きしめたりすると、直ぐに嫌がる息子なのに、何かを感じてくれたのか、じっと私に包まれている。

「疲れてるんだよ」

 声変わりしかけたかすれ声で、優しく息子は言った。

「うん、そうかも……でも、もう大丈夫、落ち着いたから。
 そうだ、ご飯食べに行かない?パアーと美味しい物食べちゃお!」

「食べに行くの?」

「お腹、空いてない?」

「空いてるけど……ねえ、家で何か作ろうよ。レストランとか、飽きちゃった。ぼくも手伝うからさ」

 何となく嬉しい気持ちになった私は、もう一度息子を抱きしめた。

「く、苦しいよォ」

 今度はするりと腕の中から息子は抜け出した。







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