破 壊
「弁護人、どうぞ」
三人並んだ中央の首席裁判官が、私を促した。
立ち上がった私を彼はじっと見つめている。
視線を合わさないようにし、裁判員席へと身体を向ける。
「それでは、被告筧亮太についての生い立ちから、事件に至る迄をお話したいと思います。
被告人は、会社員の父、筧亮三、母、佐和子の間に長男として昭和〇年□月Χ日、東京都江戸川区〇Χ町2-5に於いて出生しました。
しかし、母、佐和子は、被告人を産んで程なく病死、佐和子の妹であった吉永早苗が、後妻として入籍され、以後二十年余り育てられて来ました。
被告人の幼い頃の家庭環境は、この部分だけを見れば確かに複雑な様相に見受けられますが、当時を知る者達の証言によりますと、特に何ら問題無く、ごく普通の親子として三人は暮らしていたようです。
ありがちな、継母によるイジメ、体罰なども無く、この事は被告本人も、そういった事実は有無であったと述べております。
変化が表れたのは、被告人が五歳になった時で、大好きだった近所の子犬を理由も無く殺してしまった事から、潜在的な暴力性が目覚め始めたと思われます。
ここで言う暴力性とは、単に粗暴とかというようなものではなく、被告人の場合はある種独占欲から生じたものでありますが、この点については、後ほど詳しく触れたいと思います。
小学校での成績は、常にクラスで五番以内で、周囲からの評判も悪くありませんでした。
当時の担任教師が被告人を評価した通信簿があります。書き込みの欄にこう書いてあります。
【もう少し積極的に発言したり、意見を述べてもいいんですよ。亮太君は、判っている答えや、本当は意見があるのに、指されるまで自分からは述べませんね。リーダーシップを取れる力があるのですから、もっと積極的になって欲しいです。】
この文面からは、特にこれといった点は窺えません。しかし、ここに一つの興味深い記録があります」
三人並んだ中央の首席裁判官が、私を促した。
立ち上がった私を彼はじっと見つめている。
視線を合わさないようにし、裁判員席へと身体を向ける。
「それでは、被告筧亮太についての生い立ちから、事件に至る迄をお話したいと思います。
被告人は、会社員の父、筧亮三、母、佐和子の間に長男として昭和〇年□月Χ日、東京都江戸川区〇Χ町2-5に於いて出生しました。
しかし、母、佐和子は、被告人を産んで程なく病死、佐和子の妹であった吉永早苗が、後妻として入籍され、以後二十年余り育てられて来ました。
被告人の幼い頃の家庭環境は、この部分だけを見れば確かに複雑な様相に見受けられますが、当時を知る者達の証言によりますと、特に何ら問題無く、ごく普通の親子として三人は暮らしていたようです。
ありがちな、継母によるイジメ、体罰なども無く、この事は被告本人も、そういった事実は有無であったと述べております。
変化が表れたのは、被告人が五歳になった時で、大好きだった近所の子犬を理由も無く殺してしまった事から、潜在的な暴力性が目覚め始めたと思われます。
ここで言う暴力性とは、単に粗暴とかというようなものではなく、被告人の場合はある種独占欲から生じたものでありますが、この点については、後ほど詳しく触れたいと思います。
小学校での成績は、常にクラスで五番以内で、周囲からの評判も悪くありませんでした。
当時の担任教師が被告人を評価した通信簿があります。書き込みの欄にこう書いてあります。
【もう少し積極的に発言したり、意見を述べてもいいんですよ。亮太君は、判っている答えや、本当は意見があるのに、指されるまで自分からは述べませんね。リーダーシップを取れる力があるのですから、もっと積極的になって欲しいです。】
この文面からは、特にこれといった点は窺えません。しかし、ここに一つの興味深い記録があります」