破   壊
 余程、私の口調が激しかったのだろうか、裁判官が見かねて、一度だけ注意して来た。

「弁護人、少し落ち着いて……」

 我に返ったかのように気を取り直し、再び私は語り始めた。

「さて、これだけの重罪を犯した被告人でありますが、何故このような事件を起こす事になってしまったのでしょうか。
 私は、精神分析医でも、心理学者でもありませんから、ここで私の見解を主張しようとは思いません。
 ですので、私が被告人から聞いた記録を専門家の方達に分析して頂きました。
 依頼した専門家の方達は、本裁判とは一切関係の無い方達で、被告人の精神鑑定を行った医師とは別であります。
 依頼した方々の共通した意見はこうです。

【極端な目立ちたがり屋で、常に自分が一番注目を集めていたい性格である。
 但し、自ら人前に出ようとか、自発的に行動を起こすタイプではない。
 潜在意識の中に、母親の存在が強く根強いている事は間違いなく、幼い頃、きちんとした愛情表現を母親、ないしは父親から受けていなかったのであろう。
 行動の全てがそこから起因しているとは思えない部分も見受けられるが、これ迄の実例から、そう判断出来る。
 関連した点では、性格バランスの歪みであるが、非常に高度な知識を持った部分を認識させながらも、極端な幼児性を感じさせる。
 具体例として、会話の中から性的欲求が一切感じられない点がある。
 時に、意図的でさえある。
 性的成長が、何らかの影響で疎外されたか、或は自ら封印してしまったかの感がある。
 自分が行った行為が、犯罪であるという認識は、充分に持っているようで、宗教的或は思想的な妄想を展開する事で行動を正当化しようとしているのは、その表れである……】」

 その先を続けようとしていた時、突然、彼が立ち上がった。

「違うっ!全然判っていないよ!先生、どうして自分の感じたままを言わないの!?他人の言葉で語らないでよ!」

「静かに、被告人は席に着きなさい」

 裁判官の命じる声など耳に入らないのか、彼の喚く声は一段と大きくなって行った。



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