破   壊
 その日の公判は中止となった。

 裁判中に、被告人が暴れたり、異常な言動をし、休廷されたり中止になったりする事は、少なくない。

 私にとっては初めての体験だった。

 裁判所を出ると、マスコミ各社が私を取り囲んだ。

 目の前に突き出されるマイクが、私にはまるで凶器に見えた。

「芳賀弁護士、筧の弁護を今後も続けられるんですか!?」

「今日の法廷では、弁護というより、寧ろ追求してるような感じがしましたが!?」

「芳賀先生!筧被告はその後どういう状況なんです!?」

「コメントを!」

「芳賀さん!何か言って下さいよ!」

 私は彼らを無視し、手配して貰っていたハイヤーに乗り込んだ。

 時間帯が、丁度ラッシュの時だったから、歩いて行っても二十分程の事務所迄、同じ位掛かった。

 事務所に着くと、テレビのニュースに私の姿が映っていた。

 何だかひどい顔をしている。

 まるで鬼のような形相で、記者達を掻き分けていた。

 美容院へ行こう……

 乱れたヘアスタイルを画面で見て、唐突にそんな事を思ったりした。

「芳賀先生、おつかれさん。大変だったようだね。今日は、家に帰ったらどう?
 まだまだ先は長いんだ、身体を休めなきゃ」

 事務所の代表がそう言ってくれたので、私は甘える事にした。

 真っ直ぐ家には戻らず、私は美容院へ寄る事にした。

 行きつけの店ではなく、私の素性を知らない店の方がいい……

 そう思い、初めての店に飛び込んだ。

 肩まであった髪を私はバッサリと切って貰った。

 襟足が見える位のショートなんて、いつ以来になるだろう。

 髪を短くしたら、少しばかり若返ったような感じになった。




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