破   壊
 息子より早く家に帰ったのも久し振り。

 夕飯を作ってやろう。

 その前に、溜まった洗濯物を……

 息子の部屋に入る。

 扉を開けた瞬間、私の部屋とは違う匂いが出迎える。

 少しずつだが、息子も大人の男へと成長している事を、部屋の匂いから実感する。

 ベッドの上に脱ぎ捨てられたジャージや、シャツを手にする。

 勝手に服を洗濯やクリーニングしたりすると、息子に叱られる事がある。

 けれど、放っとくといつまでも洗濯しないままでいるのが男の子だ。

 息子のプライバシーを尊重して、余り部屋の中の物に手を付けないようにはしているが、やはり母親としては気になる。

 床が埃っぽかったので、掃除機を掛けようとした。

 ベッドの下にノズルを入れると、何かに当たった。

 私の頭の中で、エッチな本やDVDが浮かんだ。

 ほほえましさと、照れ臭さが入り混じる感覚を心の何処かで楽しみながら、ベッドの下からそれを出してみた。

 菓子箱。

 中身は本かな?

 蓋を開けると、一冊の日記帳が入っていた。

 これは見ちゃいけないわ……

 手にした日記を一旦、箱に戻したが、私の心は誘惑に揺れ動いていた。

 日を追う毎に少なくなって来た息子との会話。

 息子の胸の内を知りたくて、何度も自分から歩み寄ってはみるが、確実に互いの距離は広がっているように感じていた。

 その距離を埋められるものが欲しい……

 あの子の気持ちを知りたい。

 怒り、喜び、哀しみ……

 あの子の感情を実感したかった。

 私の指は、ページをめくり始めていた。






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