破 壊
「その髪型、好きだな」
言われたくもない相手にそう言われ、私は黙り込んだ。
「今度の法廷では、ちゃんと自分の言葉で喋ってよ」
「私は、弁護士だから、個人的感情で物事を伝える訳には行かないの」
「そう?本当にそうなの?」
透明なアクリル板の向こうで、ゾッとするような笑みを見せる彼。
思わず視線を逸らした私に、
「僕が篠塚先生や、母親を殺す辺りの話なんか、完全に心がこもっていたけどな。聞いてて、感動したもの」
と彼は言った。
「あの時、僕は先生の心情に初めて触れられたんだ。今までは、僕が一方的に伝える側だったじゃない。あの時、僕は先生と会話してたんだ。ねえ、先生もそう感じたんじゃない?
何かを感じたから、自分の胸の内からほとばしるような言葉が出たんだよ。激しさはパッションさ。感情そのものなんだ。間違いなく、僕と葉子は繋がったんだ」
葉子?
私の名前を口にしないで!
どうして名前で呼ぶのよ!
心の中で私はそう叫んでいた。
彼は、この後も私をずっと名前で呼び続けていた。
狂ってる……
彼の視線に狂気を嗅ぎ取ろうとしてみた。
冷ややかに、そこにいつまでも佇んでいたかのような静かな眼差しがあった。
狂人の目……
とは思えない程、落ち着いていて、深く沈んだ目。
激情のかけらも窺えない。
小さな笑窪を片側だけに作り、彼は
「葉子は判ってるんだ。この出会いが何を意味するかを……」
既に私の頭は混乱をきたし始めていた。
ここで何かを喋ると、全て彼の思うまま……
私は、ただひたすら沈黙を守ろうとした。
言われたくもない相手にそう言われ、私は黙り込んだ。
「今度の法廷では、ちゃんと自分の言葉で喋ってよ」
「私は、弁護士だから、個人的感情で物事を伝える訳には行かないの」
「そう?本当にそうなの?」
透明なアクリル板の向こうで、ゾッとするような笑みを見せる彼。
思わず視線を逸らした私に、
「僕が篠塚先生や、母親を殺す辺りの話なんか、完全に心がこもっていたけどな。聞いてて、感動したもの」
と彼は言った。
「あの時、僕は先生の心情に初めて触れられたんだ。今までは、僕が一方的に伝える側だったじゃない。あの時、僕は先生と会話してたんだ。ねえ、先生もそう感じたんじゃない?
何かを感じたから、自分の胸の内からほとばしるような言葉が出たんだよ。激しさはパッションさ。感情そのものなんだ。間違いなく、僕と葉子は繋がったんだ」
葉子?
私の名前を口にしないで!
どうして名前で呼ぶのよ!
心の中で私はそう叫んでいた。
彼は、この後も私をずっと名前で呼び続けていた。
狂ってる……
彼の視線に狂気を嗅ぎ取ろうとしてみた。
冷ややかに、そこにいつまでも佇んでいたかのような静かな眼差しがあった。
狂人の目……
とは思えない程、落ち着いていて、深く沈んだ目。
激情のかけらも窺えない。
小さな笑窪を片側だけに作り、彼は
「葉子は判ってるんだ。この出会いが何を意味するかを……」
既に私の頭は混乱をきたし始めていた。
ここで何かを喋ると、全て彼の思うまま……
私は、ただひたすら沈黙を守ろうとした。