破   壊
終   章
 彼の手がゆっくりと私の方に向かって来る。

 い、いや……

 身動きが出来ない。

 ぴたりとその手がアクリル板に吸い付いた。

 掌が汗ばんでいるのか、少しずつ透明なアクリル板のその部分だけが曇って行く。

 高鳴る鼓動。

 微かに震える両の腿。

 力を込め、膝頭を精一杯閉じようとした。

 両手を下ろし、震える膝を抑え付けた。

 スカートの裾が皺になる位、私は力を込めていた。

 沈黙を打ち破るかのように、突然、彼の顔が私に近付いた。

 椅子から腰を浮かした彼は、あのままの表情で、

「みんな、僕が狂ってると思っている。葉子、君もだ。その事は別にどうでもいい。
 僕が望んでいるのは、他人からどう思われるとかではないから。先生……葉子、僕らは運命で繋がっている。その事をまだ理解出来ていないようだけど、もうすぐ悟るよ。ちゃんと葉子は気付く筈だから」

 金縛りにあった感覚のまま、私の視線は彼の目から逃れられないでいた。

 彼の顔がすうっと遠ざかる。

 そのまま立ち上がった彼は、面会室の扉を中からノックし、外で待機していた刑務官を呼んだ。

「終わったのか?」

「ええ、今日はこれで終了です」

 振り向いた彼は、私に微笑んだ。





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