破   壊
 鏡に映る私の顔。

 ゆっくりと時間を掛け、化粧をして行く。

 時間迄、まだ何時間もあるというのに、私の心はその時を待ち切れないでいた。

 彼が望んでいた真っ赤な口紅。

 二度、三度と塗り重ねて行く。

 鏡の中で、唇だけが命を得たかのように、鮮やかな色彩を放っている。

 洋服箪笥を開け、前の日から決めていたワンピースを取り出す。

 透き通るようなピンク色。

 そして、ストッキングも、淡いピンク。

 何度も姿見に映し、数時間後に思いを馳せる。

 昨日の最後の面会で、彼は私に全てを悟らせてくれた。

 言葉は無かったが、必要無かった。

 大輔の部屋へ行き、あの日記を手にする。

 一文字一文字、噛み締めるようにして心の中に埋め込んだ。

 日記を元の場所に戻そうとしたが、考え直してバックの中に入れた。

 彼からの手紙と共に。





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