ひとっ飛び
「吉村くん、だったね?」

唯の父親が言う。

「約1ヶ月、唯と交際を続けていたようだが、悪いが白紙に戻してもらう。大切な娘だ、万が一、娘の体に何かあったら取り返しがつかない」

膝の上で拳を握り唯を見た。相変わらず、彼女は泣いている。

「金輪際、唯に近付くのを辞めてもらう。男女交際は立派な校則違反だ。いいね?」

気分が深い海の底へ沈んでいった。唯に近付くなだと?そんなの嫌だ。

無言のままでいることが、僕の最大限の抵抗だった。

ここで『ふざけるな!』と怒鳴ることもできる。できるが、それは得策ではない。

ひっそりと会うことぐらいは出来るだろう。そう判断した。

その後、僕たちは反省文を書かされた。僕も唯も、今までほとんど校則を破ったことのない生徒だったから、停学処分を受けたりすることはなかった。
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