ひとっ飛び
最悪な気分で家に戻った。

自分の部屋に戻り、ベッドの上に腰掛けてぼんやりしていると、コンコンとドアがノックされた。

「直樹、開けるぞ」

カチャリと開いたドアから顔をのぞかせたのは、僕の父だった。

後ろ手にドアを閉め、テーブルの前であぐらをかく父。

僕たちはしばらく沈黙した。

視線を左右に揺らしたあと、父は言う。

「学校から電話があったよ。厳重注意だってな」

うん、と僕は言った。

「あまりにも急で、ビックリしたよ。父さんに話して欲しかったな」

父は着ていたポロシャツの胸ポケットからタバコを取り出し、ライターで火を付けた。

「だけど…父さんも悪かった。仕事でいっぱいいっぱいでさ。お前とゆっくり話す時間もなかった」

僕は父の顔を見つめた。父も僕の目をしっかりと見返してくれた。

「いろいろ言おうと思ってたけど、今のお前にはどんな言葉も無力だろう。気が落ち着いたら、下に降りて来なさい。母さんが心配してるから」

わかった、と僕は言った。

静かに父は出て行った。

誰もいない部屋のベッドの上で、膝を抱えて僕は泣いた。
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