ひとっ飛び
「えっ」と言い、赤のプリントシャツとジーンズを着た唯が、口元を両手で押さえた。

僕はポカンと口を開けたまま、朝倉を見た。

彼は目を伏せ、僕の顔を見ようとしない。

「…おい朝倉、どういうことだ?」小さな声で尋ねる。

「さ、さあ?俺はちょっと仕事があるから」

と言って、椅子を引いて立ち上がり、

「宮原さんちょっと待ってて。今から持ってくるから」

唯に声をかけ、逃げるようにして店の奥に消えてしまった。

ゆっくりと彼女は僕のいるテーブルに歩み寄る。

「座っていいですか?」

「…うん」

彼女は、僕の正面ではなく斜め前の席に座った。

少し悲しかった。
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