ひとっ飛び
彼女が言いにくそうにしたのは、僕と唯の別れ方を思い出したからだろう。

僕たちは、引き裂かれたようなものだから。

彼女の言葉で、僕の心にさざ波が立ったが、すぐにそれを握り潰す。

「それは…おめでとうございます。9月いっぱい、僕は実家にいますから、僕に何かできることがあったら連絡ください」

そう言い、帽子のつばを指でつまみ、また頭を下げた。

坂道をくだりながら、僕は唯の父親の顔を思い出していた。

あの厳格すぎる父親のことだ、おそらく僕を式に呼んだりすることはないだろう。

突き当たりを右に曲がったところに、喫茶『りぴーと』はあった。
< 3 / 31 >

この作品をシェア

pagetop