ひとっ飛び
朝倉の耳には、去年にはなかった筈のピアス。髪もすこし赤くしたようだ。

彼は大学受験に失敗したあと、浪人生活をしていた。勉強ばかりだと気が滅入るということで、実家の喫茶店の手伝いをしていたが、だんだん仕事が楽しくなってきたらしい。

もう今では、大学を目指すことをやめ、親の店を継ぐつもりだという。

「そういや、聞いたか?宮原が結婚するんだってよ」

朝倉は視線をカフェオレに落としたまま言う。きっとこの話をするつもりで、僕の前に座ったのだろう。

まったく今日という日は、と僕は心の中で溜め息をついた。

「ああ…さっき、彼女のお母さんから聞いたよ。坂の所で会ったんだ」

ふーん、と朝倉は、まだ僕の顔を見ようとしない。

彼が話をどういう風に展開したいのか、なんとなく予想できた。彼は気遣いをしないふりをしているのだ。
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