distortion
「パパは反対だけどな。お前が出来る程簡単な世界じゃないぞ。実力だけでのし上がっていける世界でもないしな」


「わかってるよ」



うん。
実力だけでのし上がっていけれないのはよくわかってる。


マネージャーの仕事をやりながら色々な裏側を見たから。


コネ
お金
事務所の優劣
色々な人間関係
陰口、ののしり合い、人を蹴落として喜ぶ奴


正攻法なんて通用しないし、嫌な事の方が多いと思う。



でも生きてる間に少しだけでもそういう経験をしてみてもいいかなって思ったんだ。


「大学はどうするんだ?退学は許さないよ」


「大学はあと少しだし、頑張って卒業するよ。仕事もやるし……だから音楽やる事を許して欲しい……です」


「お前がそこまで言うなら25までは期限をあげよう。それで駄目なら就職を考えろ。約束出来るか?」


「はい。約束します」


「でもパパは反対だからな。覚えておいて」


「はい……」







「行ってきます……」


これ以上ちょっとパパの顔は今見たくなかったから早めに家を出ようとしたらママが声をかけた。


「まーくん、頑張りなさいね」


「ママ?」


「まーくんが決めた道ならちゃんと頑張りなさい。たとえパパが反対してもママは応援するからね。何か困った事があるならママに言いなさい、ね?」


「ありがとうママ」


ママ……ありがとうね。
ママにこれ以上甘えたらいけないのはわかってるんだけど、やっぱり嬉しい。


「じゃあ行ってくるね」


「帰り遅くなるならメールはしてね」


「わかった」




今日は俺がミュージシャンとして受ける初オーディションの日。



ママに見送られてなんか凄く心があったかくなった。



頑張らないとな。
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